2004年11月18日

切なさの語彙は、豊富なほど幸せ。「転校生」を観る

(ネタバレ記事ですのでご注意を。と言っても、これだけ有名な作品だと、内容を知らない人は少ないでしょうが……)

小林聡美つながりの大林監督作品として、絶対に外せないのが「転校生」です。先日「廃市」を観たことがきっかけになり、久しぶりにビデオを引っ張り出してきて鑑賞しました。

私は「転校生」が大好きなんですが、その魅力を端的に言うならば「切なさ」に尽きます。もう少年や少女でなくなった大人たちが、過去と向き合うことで呼び起こされる「切なさ」です。その切なさが胸に去来して止まないのです。

そういう意味では、「転校生」は大人が切なさに身悶えする映画と言えるでしょうし、逆に若い人には、最後でふたりが交わす言葉の意味の重みといったものが、“切なさ”ではなくシンプルな“悲しさ”として受け取られるのかもしれません。

10代の年齢でこの映画を観た人は、ぜひとも20代後半以降にジックリと見直してみて下さい。その時きっと、この作品の凄さと容赦の無さ(笑)が身に染みることでしょう。

さて、ラストシーンの「さよなら私」「さよなら俺」という言葉で決別されるものは、紛れも無く彼らの「少年時代」であり、観ている私たちの「あの頃」です。そして、その「少年時代の終わりの始まり」は、二人が入れ替わってしまった時であり、また、「一夫(尾美としのり)自らが転校生となること」を両親から知らされたその時です。

タイトルの「転校生」とは一美だけのことを指していると思ってしまうところですが、見方を変えて、長年育った尾道を一夫が巣立って(転校して)行く過程を描いたと捉えると、そこには「転校(して行く)生」が浮かび上がってきます。

少年だった一夫が、ひょんなことから一美と心が入れ替わり、思いも拠らないかたちで思春期を経て行くことになります。そしてその中で、他者(「一夫になった一美」や悪友、その他の友人達)の存在に自我を揺さぶられることを通じて、思いやりや人を想う心が育まれ、成長して行きます。

その成長の過程において、当人も気付かない内に「無邪気で無垢な少年」を過去に置き去るのであり、新たに「青春の青さ」を体現し始めて行くのです。それを観る側は、これらの「取り返すことの出来ない時代」の持つ痛々しいほどの鮮烈な美しさに、どうしようもない切なさを感じるのです。

さて、私の好きなシーンがいくつかあるのですが、そのひとつは二人が家出をする直前、一美が「最後に自分の体にさよならを言わせて」と、“心は一夫で体は一美”の胸(ややこしい)に顔をうずめるシーンです。

このとき、体が入れ替わって以来、一体どれほど一美は悩み苦しんできたのか、その、これまでの内面の葛藤、悩みの過程と行き着いた先の「(絶望という名の)覚悟と諦観の大きな揺らぎ」を見せ付けられる思いがして、正視することが出来ません。

ネット上の感想で「あれだけ饒舌で活発だった一美が、入れ替わってからはおとなし過ぎて不自然だ」というものをいくつか見ます。ですが、このシーンの表現する重みを理解すれば一美の心中は察するに余りあり、様子の変化も当然納得が行くものだと思うのです。

あと、このシーン以外に忘れてはいけないのがラストの8ミリ映像です。かの有名な「さよなら」を交わした後、一美がトボトボと引き返すうちスキップを始め、最後に明るく振り返る、あのシーンです。

あの一美の明るさに象徴されているものは「少年時代の記憶の甘さや切なさ」であり、それを「掛け替えのない素晴らしき良きもの」として、暖かくいつまでも守って行こうという思いにさせられます。

そうです、あれだけ色々な事件や出来事がありながらも、それを記憶として振り返った時には、甘く、切ないものを感じざるを得ないものです。そして、その甘さや切なさの存在は、もう自分はそれには手が届かない、取り返しようが無いところに立っているのだという事実を、私達に突き付けてもいるのです。

男女の心を入れ替えるというモチーフによって、ここまで劇的に心の成長と変化を、そして切なさを描き出せるとは驚きです。原作の魅力と、それを映像化した監督の手腕に感嘆するばかりです。

さて、ここまでは作品そのものについて書いてきましたが、別の機会には出演者のことなど、少しミーハーなことも書いてみようかと思います。

2004年11月18日 22:23 | 4.映画・音楽・テレビ

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